「パート先であるテイクアウトすし店に現れるお得意さんのマダム。以前、私が作る太巻きが汚いとクレームを受けたことがありました。そして、またそのマダムがやってきて、『あなたの太巻きを買うわ』とのご指名が...。一体どうして...!?」
■私が作る太巻きを毎日購入する女性。2カ月が過ぎた頃...
なんと「時間はたっぷりあるから、私は待っているから、彼女の太巻きを買うわ」と私を見て言うのです。
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もう、驚きと緊張でまたまた手が震えましたが、ベテランおばさんに隣についてもらい、1からキレイな太巻きが作れました。
何も言わずうなずいている老婦人。
そして、何事もなかったかのように購入して帰る姿を、ホッとしながら見送りました。
その後、「太巻きはうまく握れていたわよ。巻きずし用の包丁の使い方がまだまだね。力を入れないで切ってごらん」
ベテランのおばさんはそういって、練習に付き合ってくれました。
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あらためて教えてもらえたことで、私の苦手な部分に気付きました。
巻きすし用の丸い包丁で切るときに力を入れて切っているので、すしを潰していたようでした。
そして、また次の出勤日も老婦人が来店されました。
棚に並べられている太巻きがあるのに「太巻き1つ」と注文され、その日から老婦人は作り置きのものではなく、「その場で作るもの」を注文して買うようになりました。
顔は相変わらず不機嫌そうなので、毎回緊張しまくる私。
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そしてクレームが入って2カ月が経った頃。
思ってもみないことが起こりました。
来店された老婦人が「あなた、うまくなってきたじゃない!」と微笑んでくれたのです。
続けて彼女はこう言ってくれました。
「ごめんなさいね、私ね小料理屋を経営していたのよ。体を壊してお店は畳んだけど、あなたを見てると、自分の若い頃を思い出してしまって、ついついお店にまで電話してしまったわ。店長に包丁の使い方きちんと教えてあげなさいって」
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本当に驚きました。
ただのクレームだと思っていたのですが、私のためを思ってくれた、いわば「愛のあるクレーム」だったのです。
あとから店長に尋ねると、注意されたのは店長だったそうです。
きちんと私を育てるようにと。
そして、私が上達するまで内緒にするようにと店長と約束したそうです。
「こんな不愛想な私にいつも笑顔で接客する彼女に会うことが日課なのよ」
老婦人は店長を叱った後、うれしそうにそう話していたそうです。
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優しい言葉に、自然と目から涙がこぼれました。
おかげさまで、今では太巻きが得意料理です。
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