「がんは結局、運の要素が大きい」と話すのは、病理学者として長年がんと向き合ってきた仲野徹先生。食生活に気を配り、健康的な暮らしを心がけていても、病気はある日突然やってくることがあります。だからこそ「がんは運」という言葉は、決して突き放すものではなく、「自分のせい」「生活習慣が悪かったのかも」と自分や家族を責めてしまう気持ちを、そっとほどいてくれる優しさを持っています。本記事では、仲野先生の著書『がんは運である? 自分事として向き合うための手控え帖』(KADOKAWA)より、がんという病気と自分らしく向き合い、納得して人生の選択をしていくためのヒントを抜粋してお届けします。
※本記事は仲野 徹 (著)による書籍『がんは運である? 自分事として向き合うための手控え帖』から一部抜粋・編集しました。
続きを読む
健全な食習慣
「科学的根拠に基づくがん予防ガイドライン」の食生活のところには、「塩分や塩辛い食品のとりすぎ」、「野菜や果物をとらない」、「熱すぎる飲み物や食べ物をとること」の三つがわざわざあげられているので、それぞれを見ていこう。まずは塩分や塩辛い食品のとりすぎから。
塩分と関係があるのは胃がんの発症率である。え、食塩が発がん物質なのか、と思われるかもしれないが、そうとも言えるし、そうではないとも言える。まず、食塩摂取量が多い男性は少ない人に比べて胃がんのリスクが高いという報告がある。絶対的な証拠ではないが、胃の中の塩分濃度があがると粘膜がダメージを受けて胃炎を発症し、発がん物質の影響を受けやすくなるという動物実験がある。どうやら、食塩が直接的な原因、すなわち、遺伝子に傷をつけたり細胞増殖を促したり、ということではなさそうだ。そらそうですわな。
続きを読む
塩分を多く含む食べ物には、味噌汁、つけもの、塩蔵魚卵(たらこ、いくらなど)、塩蔵魚(目ざし、塩鮭など)、その他の塩蔵魚介類(塩辛、練りウニなど)などがある。男性ではこういったものを食べる回数の多い人が、また、塩分濃度が非常に高い塩蔵魚卵と塩辛、練りウニなどを食べる回数の多い人は男女ともに胃がんのリスクが高いことが報告されている。これらの場合は、食塩そのものが悪いのではなくて、塩蔵品を作る際に生じる何らかの物質が原因なのかもしれない。
かといって、「とりすぎ」がダメなだけであって、神経質に避ける必要はない。ただ、塩分のとりすぎは胃がんだけではなくて高血圧の原因にもなる。日本人の食塩摂取量は、WHOが推奨する一日5グラム未満の倍くらいもあるので、控えめにした方がいいのは間違いない。
続きを読む
一般的な食品で発がんに関係があるのは、赤身の肉やソーセージ・ハムといった加工肉だ。これらは大腸がんの発症リスクをあげることが確認されている。かといって、これも、食べるなという訳ではない。WHOは、赤身肉は調理後の重量で週500グラム以内、加工肉はできるだけ控えるように、と勧告している。日本人の赤身肉や加工肉の摂取量はかなり低いので、これも神経質になる必要はない。要はバランスのよい食事を心がければいいということだ。
「野菜や果物をとらない」というのは、バランスの悪い食事の典型である。がんだけでなく、生活習慣病にとってもよろしくない。発がんの抑制に関しては、野菜や果物に含まれている抗酸化物質や食物繊維の働きが大きいとされている。微妙な書き方をしたのは、どちらも完全に正しいと言い切れるほど強いエビデンスがあまりないからだ。食物繊維の働きはいろいろ言われているが決定的なものはないし、抗酸化物質が必要だからといって、ビタミンCを摂取しても発がん率を明らかに下げるというエビデンスもない。
続きを読む
栄養学のデータ、何をどれくらい食べたか、それも長期間にわたって正確に調べるというのは非常に難しい。なので、確固たるエビデンスが乏しいのにはいたしかたのないところがある。でも、たぶん正しい。ここでも、結局はバランスよく食べましょうということになる。
厚労省の「健康日本21(第二次)」では、生活習慣病などを予防し、健康な生活を維持するための目標値のひとつに「野菜類を1日350g以上食べましょう」と掲げられている。これは、食物繊維やビタミンCやEのような抗酸化ビタミンの適量から提案された量だ。年間にして128キログラムぐらいになるが、農林水産省の統計によると生鮮野菜の年間摂取量はひとりあたり94キログラムぐらいだから、果物を足してもギリギリといったところだろう。みなさん、もっと野菜や果物を食べないとあかんみたいです。
続きを読む
三つめの「熱すぎる飲み物や食べ物をとること」は食道がんのリスクをあげることが知られている。熱い物は口の中や食道の粘膜を傷つける。それを治すために粘膜細胞の増殖回数が増える、そうなると遺伝子に傷がつきやすくなる。また、炎症によって作られた活性酸素が遺伝子に傷をつける。そういったことによって発がんのリスクが上昇するのである。
食品添加物を気にする人もおられるかもしれないが、日本の安全基準は非常に厳しいので、普通に売られているものを普通に食べている限りは心配におよばない。ありきたりなアドバイスになるが、塩辛やソーセージを含めて、何か特別なものを食べすぎるといったようなことなく、バランスのよい食生活、そして野菜と果物を多めに、というのが、がんになりにくい食生活なのだ。先に書いたことの繰り返しになるが、何かを食べなければがんにならない、あるサプリを飲んだらがんにならない、などということは絶対にないことは強調しておきたい。
記事一覧に戻る