上皇后美智子さまの長年のご親友であり、彫刻家・舟越桂さんの姉でもある末盛千枝子さん。絵本編集者を経て「すえもりブックス」を設立した末盛さんは、84歳を迎えた現在、東京から移住した岩手山を望む自宅でひとり暮らしを送られています。著書『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA)は、80代という人生の深まりを迎えた末盛さんだからこそ感じられる、日々の発見や生き方の実感が綴られた一冊です。年齢とともに訪れる身体の変化や暮らしの機微をまっすぐに見つめつつ、ユーモアを交えて語られる言葉の数々は、これからの人生を軽やかに生きるためのヒントにあふれています。
※本記事は末盛千枝子(著)による書籍『今だからわかること 84歳になって』から一部抜粋・編集しました。
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なまけ者の庭いじり
私の一番初めの庭いじりの記憶はといえば、世田谷の自宅の草抜きだと思います。中学生の頃。何か考え事をしながら草抜きをすると、なんとなく落ち着くのでした。そして、大学1年の時に、カメラクラブの合宿で、十和田湖に行ったのですが、その時、クロユリの球根を買いました。熱心に見ていたわけではないけれど、あの頃、「君の名は」というドラマが流行っていて、その中で歌われていた「黒百合の歌」に刺激されて買ったのかもしれません。めったにそんなことはしないのに、そのクロユリを植えて、大切に育てて、確か、一つぐらいは咲いたのだと思います。
25歳の時、初めてヨーロッパに行ったのですが、パリの銀行で仕事をしていた先輩に、「絵葉書しか買わないね」と言われたほどの貧乏旅行でした。ところが、スイスに入った時に、エーデルワイスの種を見つけたのです。「エーデルワイス」といえば、もちろん、あのジュリー・アンドリュースの映画「サウンド・オブ・ミュージック」で散々聞いて好きになった歌のタイトルでした。その前、まだ学生だった時に、アメリカに留学していて、短期で帰ってきた先輩が、今アメリカで流行っているからといって、「エーデルワイス」を歌ってくれたのです。なんて素敵な歌だろうと思って聞いていました。そんなこともあって、日本で映画が上映されるとすぐに観に行って、本当に素敵だと思いました。
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日本の山でも見かける花ではありますが、せっかくだからと思って、ヨーロッパ・アルプスのエーデルワイスの種の袋を買ったのです。うちに帰って、みかん箱に植えて、大切に育てました。明日にでも咲くかなと思っていた時に、なんと、青虫に食べられてしまいました。花の蕾が見事に丸ごと食べられていました。誰に文句を言うわけにもいかないし、本当にがっかりしました。
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それからブックフェアなどで海外に行くようになり、どこの町でも、窓辺に赤いゼラニウムの花が咲いているのがとても素敵だなと思うようになりました。そうか、庭がなくても窓辺やベランダでも十分楽しめるのだと気がついたのです。イギリスでは、そういう本をたくさん売っていました。“Window Box Flowers” という本はことさら忘れられません。それを見ていていいなと思ったのは、色々な花を組み合わせて植える楽しさです。多分、それは絵を描くことと共通していて、どの色の隣にどの色を置くかということと同じだと思います。そして、それは自分が楽しむだけではなくて、道行く人々への「こんにちは」という挨拶のような気がするのです。
そして今、不思議な成り行きで、この地、八幡平に住むことになったのですが、最初の頃、恐る恐る植えた球根が芽を出したり、大きな赤や白のシャクヤクが自分の庭に咲いたりするなんて信じられないと思いました。今では、芽が出始めた頃に、これが何の花かわかるまでになりました。数年前から足の具合が悪くなり、とても一人では庭に出られなくなりましたが、毎週来てくれるシルバーさんたちが、色々と面倒を見てくれるのです。いつ仕込んでくれたのか知らなかったのですが、なんと、玄関の近くに小松菜の種を蒔いてくれていたのです。今日初めて収穫でき、生協から届いた油揚げと一緒に煮浸しにしました。自分の庭で採れた小松菜は格別でした。
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