毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなどさまざまな感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今回は「東京での再会」について。あなたはどのように観ましたか?
【前回】初恋の始まりから終わり。怒涛の展開を上品に描く演出に思い出される「あの朝ドラ」
朝ドラ『ブラッサム』第4週は「岩国と、共に」。初恋の相手・島村(工藤阿須加)との一件で「ふしだら」の噂がついて回る珠(石橋静河)の家は、継母のリョウ(国仲涼子)が工場で稼ぐわずかな賃金で暮らし、リョウは自分の嫁入りの着物まで売ろうとするほど苦しい状況だ。
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珠は内職をしながら仕事を探すが、本家の酒造にさえ一度は噂のせいで断られる。「このままだったらあの子はずっと下を向いてうずくまって生きんといけん」とリョウが頭を下げ、やっと受け入れられた職場でも、客と従業員の冷たい目が待っている。いつか噂は消えると願い、懸命に働いてきた珠だが、得意先を次々に切られた本家は結局、珠を辞めさせる。
「悪いうわさがへばりついて、離れていかん。一生このままなんじゃろうか」
母と弟妹の前でうずくまって泣く珠。第3週では、大人の扱いが子どもたちに「どうせ自分たちなんか…」と言わせていたが、今度は大人たちの噂が、珠から顔を上げる力を奪っていく。おとがめなしだった島村と違い、噂が追いかけるのは珠ばかりで、弟妹まで笑われ、嫌がらせを受ける。
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そんな中で、珠の側に立つ大人が元夫の弟でいとこの保(金子大地)である。夏休みで京都の第三高等学校から帰省中の保は、珠が兄との婚姻から逃げ出したにもかかわらず、「迷惑をこうむったんは珠さん、あんたじゃろ。大人の都合に振り回されて」と言い、兄がひいきの女と駆け落ちしたことも明かす。さらに、珠のその後の「ふしだら」とされる恋の噂も「知っちょったよ」とも。神社で保と『イワンの馬鹿』や同人誌の話をするのは、珠にとって唯一、心が休まる時間だ。京都に戻った保とは手紙を交わし、「手紙を書いている今だけ、やっと息が吸える」とまで綴る。本の話ができてユーモアもある保は、珠にとって理想的な相手にも見える。
その保の母で、珠の叔母にあたる照子(山田真歩)が、秋にやってくる。長男の色街通いを止めるためにいとこの珠を嫁に迎えたのに、その珠に3日で出て行かれても恨まず、珠を不憫に思っていたと言う照子。さらに驚くことに、珠に京都の保のところへ行ったらええ、「男と女のことじゃけえねえ。ゆくゆくは一緒になったらええ」と言うのだ。
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リョウは、珠が離縁した長男の次にすぐ次男の保を勧める照子に腹を立てる。また、珠も家族がいるからと断るが、「このままじゃあんた、岩国じゃお嫁にいかれんよ」という照子の言葉は、軽い口ぶりで痛いところを突く。
一度は断った話だが、東京帝大に進むという保の手紙を読んだ珠が東京に思いを馳せる様子を見たリョウは、照子を訪ねる。そして、保のお世話係をさせてほしいと申し出るのだ。照子は「じゃけん、うちもええ条件じゃ言うたのに。しぶって、もったいぶって」と笑う。
思えば長男を珠にあっさり捨てられ、その長男は駆け落ちで去り、次男は進学で遠方に行き、自分は病気の夫の世話をしているのに、照子にはちっとも悲壮感がない。山田真歩の芝居も相まって、今のところ誰より明るく奔放で、咲き誇っている。どんな状況でも変わらず軽口を叩いて無邪気に人生を楽しめる人はいるのだと感じさせる人物だ。
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一方、第2週のリョウは、嫁ぐ珠の手を握って「珠様、辛抱するんよ」と言ったが、今は「珠様、逃げんさい。岩国から出んさい」と背中を押す。変化のきっかけの一つは、梅(松本穂香)の母(楠見薫)の涙だろう。梅が嫁ぎ先で姑にいびられていることを知り、幸せになってほしかっただけなのにと涙を見せる姿に、同じ母として思いを新たにするところがあったのだろう。リョウは、珠が笑っている姿をずいぶん見ていないとつぶやく。
その晩、リョウは、初めて会った日に珠が着ていた着物を珠に見せる。珠の実母が心を込めて仕立てたもので、「ひと針ひと針丁寧に縫うてある」と、見るたび胸がいっぱいになったという。
「お金より心が心配じゃ。あることないこと言われて小そうなって生きてる珠様、もう見とうない」
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このまま敗けとうないという珠に、リョウは言う。
「敗けてもええじゃないの。生きちょったら、なんぼでも取り返せるんじゃけえ。珠様、これからは自分のために生きんさい」
勝ち負けの外へ出ていい、と母が許す。丁寧に縫われた着物のように、心を込めて渡された愛情は、本人が気づかなくても刻まれ、生きていく道を照らすお守りになる。
珠の上京を聞いて飛び出したのが、弟の守(中須翔真)である。守は、珠のことで二人組に絡まれたところを、岩田屋の幸三(八嶋智人)に助けられ、母にも姉にも言わないでくれと頼んでいた。珠たちを自分の子のように見守ってきた幸三に、「雇ってくれ」と頭を下げた守。「姉様は必死に生きちょるんじゃ。わしが力になってやらな」。珠が初恋に夢中だったころは「どうせ"めざし”のところじゃろ」とからかっていた思春期の守である。大好きな姉の目が外に向いていくことに、複雑な思いもあったのかもしれない。
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「うちのせいでみんなに辛い思いをさせてしもうた」と詫びる珠に、守は言う。「わしも俊子も英男も、どがあなときでも耐えてきたんは、姉様と一緒にいたかったからじゃ」。守ろうとしてきたつもりが、守られていた。珠はそれに気づき、「このまま岩国におっても、うずくまっただけなんよ。どうかうちのわがままを許してほしい」と答える。家族や家のためだとは言わず、自分の思いと生き方として語る誠実さがある。守に妹弟を託したのも、そんな守が、もう守られるばかりの子どもでないと気づいたからだろう。
別れる前の晩、みんなで「春が来た」を歌う。第3週のラスト、失恋した珠が泣きながら一人で歌って帰った歌である。リョウは「これからは正真正銘、珠様の人生じゃけんね。胸張って生きるんよ」と送り出す。
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東京に来た珠は、肩がぶつかっても誰も気にしないことに驚く。
「誰もうちなんて見とらん。もう小そうならんでええんじゃ」
東京は人間関係において、冷たい、人に無関心だとネガティブなイメージで語られがちだが、行き場のない人や行き詰まった人が解放され、息ができる場所でもある。それは今もきっと変わらない。
保が暮らす下宿は学生たちの住まいで、他人の男女が一緒に住むのはいけないという理由から、珠は保の「妹」ということになっていた。来る途中で珠にからんだ酔っ払いは、大家の辰五郎(赤堀雅秋)で、酒のために働き、酒のために生きているという。実質的に下宿を取り仕切っているのは、しっかり者でちゃきちゃきした娘のマキ(中村優子)らしい。
迷惑ではないかと聞く珠に、保は「待ちくたびれたくらいじゃ」と答え、一度お世話係の話を断られたと聞いて正直残念だったと明かす。彼は珠が兄のもとを逃げ出した夜からずっと珠を思っていたと言い、戸惑う珠に「ええよ、まだ兄さまのままでええ。けど、いつか岩国でのことが忘れられたら、そんときはこっち向いてほしい」と告げる。保は、3日で逃げ出した珠の大胆さに憧れたのだろうか。自分の理解を超えるものへの憧れは、帝大生らしい「探求心」からくる恋なのかもしれない。珠を岩国から解放し、東京への道を拓いてくれたのは保である。それでも、ストレートな告白を受けた珠にときめく様子はない。もともと保との会話や手紙のやり取りに癒しを感じていて、「兄さまのようじゃ」と話していたくらいなので、恋に発展しそうな気配は今のところ薄い。
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買い物に出た珠が立ち寄った「ぶくぶく堂」で手に取ったのが、雑誌『少女春秋』である。「せっかく来たんだからよ、しっかり立ち読みしたらいいよ」と勧め、読んだら買うと言い切る変わった店主は、『女郎花』の土橋風子について熱弁をふるう。20歳そこそこの女性作家で、少女小説だと思って舐めてかかると、腹の底にハフンとくる、と。店主を演じる川島潤哉は、『舞いあがれ!』で情熱的でクセのある編集者、リュー北條を演じた人で、再び本に関わる人物としてBK朝ドラに登場したことがSNSの一部で盛り上がった。今週の演出は同作の演出でもあった野田雄介で、このキャラクターはそこから生まれたのかもしれない。
店主のプレゼンに惹かれて、珠は雑誌を買う。小説との再びの出会いである。土橋風子は少女小説で人気を集めた吉屋信子をモチーフにした人物で、演じるのは尾野真千子と発表されており、どんな姿で現れるのかが楽しみだ。長く笑顔を見せていなかった珠の目に、輝きが戻る。
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